甲状腺の病気 バセドウ病と橋本病 

北見病院院長  平野 浩

昨年十一月に北見病院で開かれた、平野浩院長の医療講演「甲状腺の病気 バセドウ病と橋本病」の内容を要約して紹介します。

甲状腺の病気はけっしてまれな病気では無く、日本では約五百万人の方が何らかの甲状腺疾患を持っていると言われています。

北見病院でも、これまで六百名以上の甲状腺疾患の患者さんを診療してきましたが、健康診断などで偶然発見される方も相当数いらっしゃり、自覚症状が無くご自身でも気づかないまま過ごされている方も多いと思われます。

外来でよく遭遇する甲状腺疾患には自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病と橋本病)、甲状腺腫瘍、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎などがあります。北見病院で集計しえた五九三名の甲状腺疾患をみると、バセドウ病と橋本病で半分以上(54%)を占めています。

甲状腺のはたらき
甲状腺はのど仏の下にあり、ちょうど蝶々が羽を広げたような形に見えます。

重さ約二十g、縦に約三から四センチ大の臓器であり、老年になるとしだいに縮小してきます。正常な甲状腺は、見た目ではわからず、指でさわっても触れることは困難です。

甲状腺では「甲状腺ホルモン」が作られ、血液中に放出されます。

このホルモンは体の熱の産生、成長・成熟、消化管からの糖の吸収促進、コレステロールや中性脂肪の値などを調整する役割があります。

「甲状腺ホルモン」が作られるためには、口から摂取したヨウ素が必要です。

また、血液中に「甲状腺ホルモン」が過不足なく丁度よい量が分泌されるために、大脳の下垂体が「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」を放出し、甲状腺表面部分(受容体)を刺激し甲状腺ホルモンの量を調節します。

この「甲状腺ホルモン」と「甲状腺刺激ホルモン」の両者がバランスよく保たれていることが、健康を得るためには必要なわけです。

機能亢進と低下
この甲状腺ホルモンが増加した状態を甲状腺機能亢進症(=バセドウ病)、甲状腺ホルモンが減少した状態を甲状腺機能低下症(=橋本病)と呼び、それぞれ図のような症状があらわれます。(但しバセドウ病の治療後や多くの橋本病は無症状です)。

両者とも甲状腺に対する自己抗体(バセドウ病ではTSH受容体、橋本病では甲状腺ろ胞細胞のサイログロビンやマイクロゾームに対する抗体)が認められ、自己の臓器を破壊しようとする自己免疫性疾患と考えられています。

次回は、バセドウ病と橋本病、そしてヨードについて解説したいと思います。甲状腺について不安なこと疑問がありましたら、お気軽に受診ください。


 昨年十一月に北見病院で開かれた、平野浩院長の医療講演「甲状腺の病気 バセドウ病と橋本病」の内容を要約して紹介しています。前回は甲状腺のはたらきについてご紹介しましたが、今回は甲状腺の病気の中でも特に多いバセドウ病と橋本病について解説いたします。


バセドウ病

 遺伝とストレスが発病の要因に
バセドウ病は二十歳から五十歳の女性に多い病気であり、日本人女性約二百人のうち一人にバセドウ病があるといわれています。

また、一人のバセドウ病患者さんがいればその親族の十七%にバセドウ病の方がいるといわれ、遺伝的素因を背景にストレスなどの環境的要因も加わって発病すると考えられています。

治療には薬物、手術、放射線による治療があり、それぞれ長短がありますが日本では薬物治療が主流です。

薬物治療の期間は普通二年前後ですが、治療終了後も二十〜三十%の方に再発があり、定期的な通院が必要となります。

また、妊娠・出産に関しては、甲状腺機能やTSH受容体抗体が正常化していることが望ましく、担当医との相談が必要です。
バセドウ病の症状

・いらいら、不安感、落ち着きのなさ、不眠
・動悸、心悸亢進
・発汗過多、体温上昇、暑がり
・疲れやすい
・体重減少
・下痢、腸運動の亢進
・月経不順


喫煙は眼の症状を悪化させることがわかっており、バセドウ病の患者さんはかならず禁煙することが大切です。
急に眼球が突出してきたり、物が二つに見える、まぶたが腫れる、目が赤くなるなどの症状が出現してきた時は、副腎皮質ホルモン治療など特別な入院治療が必要となります。

薬物治療でもコントロールがつかない患者さんは、手術治療や放射線治療が必要となってきます。

これらの治療の期間は短いのですが、いずれも治療後数年から十数年経てから甲状腺機能低下症という反対の病状になることがあり、やはり治療後も定期的な通院が必要です。



橋本病

定期的な検査を欠かさずに
橋本病は一九一二年、九州大学の橋本策博士が世界で始めて報告したため、この病名がついております。
女性が男性の十五から三十倍多く、四十才以上の女性の十三人に一人がこの病気を持っているという報告もあります。
橋本病と診断されても約八十%の人は治療する必要のない方ですが、年一・二回の定期的な検査は必要です。
橋本病の症状

・体がこわい
・のどもとに違和感を覚える、声がかすれる
・便秘がする
・寒がりになる、皮膚がカサカサになる
・月経過多になる


橋本病の症状は図のとおりですが、高齢発症の場合は「何となく元気がない、物忘れがひどくなった、表情が乏しく動作が緩慢になった」など一見「年のせい」と思われがちな症状が、橋本病のためということもあり注意が必要です。

また健診などでコレステロール高値の原因が、橋本病による甲状腺機能低下のためということもあり注意が必要です。

治療は甲状腺ホルモン剤を内服しますが、ほぼ一生内服することになります。
甲状腺機能が正常になれば運動、仕事、妊娠、授乳とも普通に可能となります。


極端なヨードの制限は
必要ありません
ヨードは甲状腺ホルモンの原料として大切なものであり、昆布やわかめなどの海藻類に豊富に含まれています。

海藻類をよく摂取する日本人には不足することはまずありませんし、必要以上に摂取しても余分なヨードは尿から排泄されます。

したがって極端にヨードを制限することもなく、普通の食生活で構いません。

ただ、昆布(だし汁含め)を大量に毎日摂取すると甲状腺が腫れたり、橋本病の患者さんでは一時的に甲状腺機能が低下することがありますので、注意が必要です。

 以上、甲状腺のはたらきと病気について紹介してきましたが、甲状腺について不安や疑問がありましたら、お気軽に受診ください。