院長 平野 浩

■ 夜眠られず悩むあなたに 睡眠障害の基礎知識 その1 ■
長時間労働、夜型社会・ストレス社会、高齢化社会のなかで、不眠に悩む人が増えています。現在、日本では五人に一人が、何らかの睡眠の問題を抱えていると言われています。

 睡眠に関する医学研究は、世界的にもこの二十年間ほどで急速に進んできているといわれ、さきごろこの間の研究の成果を踏まえた「睡眠障害の対応と治療ガイドライン」という書籍が出版され、新聞などで話題をよんでいます。

今回は最新の睡眠障害に対する考え方や治療について2回に分けて紹介します。

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 不眠に悩む人はどれくらいいるのか?.

 一般的調査によると、現在日本では不眠症に悩む人は20から60歳で約19%、60歳以上で約30%と言われます。

 先日、北見病院の外来に通院されている60歳以上の患者さん31名に調査をしたところ、実に16人(52%)の方が不眠に悩んでいらっしゃいました。

 またその内容を見ますと入眠障害4人、途中覚醒(かくせい)・早朝覚醒7人、両者とも合わせ持つ方が5人であり不眠症で悩む方16人のうち21人(75%)が途中覚醒・早朝覚醒タイプの不眠症を持っていることがわかります。

 この数字は調査した方がさまざまな病気で通院されている方であり、一般の不眠症に関する調査より高く出ていますが、一般的調査でも青・壮年期に比べ高齢になるほど不眠症の率は増え、特に途中覚醒・早朝覚醒が増えることが知られています。

 人間はどれくらい眠ればよいのか

 「人間の望ましい睡眠時間は8時閨と思う方は多いと思いますが、アメリカの大規模調査によると、8時間睡眠を取る人より7時間睡眠を取る人のほうが寿命は長いという結果が出ており、長く睡眠を取った方が健康であるということではなさそうです。

 日本の成人での調査では「睡眠が充足している」と答えた人の平均睡眠時間は6から7時間が40%と最も多く、次いで7から8時問が22・6%となっています。
 一方、高齢になってくると睡眠時間は減ってきます。
 睡眠中に脳波などで実際に眠っている時間(床に入っている時聞ではない)を調べてみると70歳を越すと6時間弱と言われます。
 ある調査では70歳以上の方の床に入っている時間は平均8・5時間と言われますから、70歳以上では床に入っても2時間半弱は床の中で寝つけない、途中・早朝覚醒にて睡眠が取れていないことになります。

 以上が平均的睡眠時間ですが、適切な睡眠時間は人それぞれです。日中眠気がなく、しっかり社会生活・家庭生活ができる睡眠時間が、その人の適切な睡眠時間ということになります。ここから少し難しい話しになるかも知れませんが、睡眠のメカニズムについてお話しをします。

人間の睡眠のメカニズム

 睡眠は二つのメカニズムから成り立っていることがわかってきました。
 一つは人間の脳にある自ら時間を刻む体内時計です。
 その周期は隔離された環境下では約25時間です。ですからそのままでは、毎日1時間づつ昼夜のリズムがズレていくことになります。
 それでは困るので私たちの脳はさまざまな条件を使いそのズレをリセツトし、一日24時間リズムに合わせようとします。

 その一番大事な条件が朝の太陽の光と言われています。
 朝起床し、太陽の光を浴びると(例え曇っていても屋外では屋内の5から10倍の明るさがあると言われる)、この体内時計がリセットされそこから15から28時間後に眠気が出てきます。

 一方、起床後2時間以上暗い室内にいると体内時計のリセットがされず、その日の眠りが1時間遅れていくことになります。このようにその日に快適な睡眠をとるためには、朝起きたらなるべく早く太陽の光を浴びることがとても大切だということがわかってきました。

 二つ目は睡眠の長さと質は、その時点での睡眠の過不足できまります。例えば徹夜した翌日、脳は睡眠を欲しがり昼間から眠いわけですが、昼間眠いと言って8時間も眠ってしまうと夜になってもなかなか眠れません。夜までがまんをして、いつもの時問に眠ったほうが快眠を得られます。

 このような事から、私たちの脳には「脳の眠りを調整する脳」が存在し、睡眠の過不足を調整していると考えられます。

 「体内時計」と「眠りの過不足を調整する脳」という二つのメカニズムが関連しあって、私たちの眠りの時間、長さ、質を調整していることがわかってきました。


 睡眠の種類―レム睡眠とノンレム睡眠

 人間の睡眠には二つの種類があります。レム睡眠とノンレム睡眠です。

 この二つの睡眠をワンセツトとして約90分おきに繰り返しています。
 
 就眠し最初におとずれるのがノンレム睡眠です。深い睡眠であるノンレム睡眠は脳を休ませる睡眠と言われます。
 ノンレム睡眠は眠りの深さにより四段階に分けます。
 そして図のように就眠後3時間の中に3・4段階の最も深いノンレム睡眠が多く含まれており、ここで覚醒してしまうと熟睡感がなくなると考えられます。

 このように見てみますと、熟睡にとって最も大切な時間帯は就寝後3―4時間と考えられます。

 また、ノンレム睡眠中は成長ホルモンや性ホルモンなど各種のホルモンが分泌され、副交感神経系が優位になり血圧、脈拍、体温なども下がってきます。
 また、体の抵抗力を増す免疫系も活発になります。
 このようにノンレム睡眠は、身体の成長を促したり、その日の疲れた体を修復したり、病気の回復を促進するなど大切な意味を持っています。

 一方、レム睡眠は手足の筋肉を休ませる睡眠と言われます。

 脳は活発に働き、交感神経系が緊張したりもします。夢を見たり、俗にいう「金縛り」にあったりもこの時に起きると言われます。
 また、レム睡眠は記憶の整理に必要な睡眠とも言われ、体温や血圧も上昇してきます。
 レム睡眠は朝の覚醒に向けて徐々に増えていき、朝の覚醒のために活発な活動を始めだしている段階と言えます。
 このように私たちは自分では自覚できませんが、このレム睡眠とノンレム睡眠を周期的に使い分けながら、体や脳を休ませ修復し、また翌日の活動準備を行っているのです。
 
 次回は病気と睡眠障害、睡眠障害の治療についてお話しします。